イギリス便り004「コロナ禍なのに、政府はーー」

12月に入ってから、この「イギリス便り」を何度も書き直しています。当初は、11月末にオミクロン変異株が南アフリカで見つかって以来、今年も去年のように政府にクリスマスが「取り上げられて」しまうのではないかと危惧する国民と、オミクロンの拡大を食い止めようと厳格な規制を主張する専門家との間でジレンマに陥っているボリス・ジョンソン首相の様子についてお伝えしようと思っていました。

ジョンソン首相は、オミクロン株のニュースを知るや否や、南アフリカ諸国からの渡航者に対して入国制限を設け、そのほか海外からの渡航者についても、入国2日後までのPCR検査を義務付けるなどの措置を(おそらく世界でいち早く)講じました。また、これまでの「イギリス便り」でもお伝えしたように、規制が“ゆるゆる”だった国内においても公共交通機関や店舗内でのマスク着用の義務化に瞬時に乗り出したため、私にはむしろ、オミクロン株の出現を格好の口実として、政府が“ゆるゆる”国民を引き締めようとしたかに思えたほどです。その際、国民には「今年のクリスマスは家族や親戚みんなで祝える」となだめ、そのためにこそ、マスク着用の徹底と、3回目のワクチン――いわゆる「ブースター接種」――を推奨するという方策に出たのでした。

ところが、板挟みのジョンソン首相をさらなる窮地に貶める事態が発覚します。事の発端は、12月1日付の大衆紙『ミラー』が、コロナ規制下の昨年のいまごろ、首相公邸で宴会が催されていたというスクープ記事を載せたことでした。12月18日、公邸内では首相の側近やスタッフたちが数十人集まり、大規模なクリスマス・パーティーを開いていたというのです。そしてこの噂を決定的な事実にしたのは、7日にITVニュースが報じたビデオ映像でした。当時、首相の報道官であったアレグラ・ストラットン(Allegra Stratton)が、記者会見のリハーサル(22日)のなかでジョーク混じりにこのパーティーについて肯定したのです。そこではワインやチーズがふるまわれ、クイズ・ゲームまで行われていた模様です。このニュースに、どれほどの国民が憤りを覚えたのか、想像するのも怖ろしい――。なぜって、このパーティーが行われていた昨年12月半ばのロンドンは、同居人や支援スタッフ以外の人と屋内で集まってはならない、最大警戒区域(ティア3)に指定されていたのですから。本来であれば、みながみな近づくクリスマスを前に心を躍らせ、クリスマス・マーケットやデコレーションで街が明るく華やいでいるはずだったのに、一般市民は外出自粛や人との交流を控える生活を強いられていたのです。しかも、パーティーのあった日の翌日(19日)、イギリス政府は、それまで国民に約束していたクリスマス期間の規制緩和の取りやめを発表し、ロンドンを含むイングランドの広い地域でティア3からティア4の「自宅待機」へと規制をさらに厳格化、20日以降は屋内で他世帯の人との会合が禁止されたため、親戚同士でクリスマスを祝うことができなくなってしまいました。つまり、「クリスマスが取り上げられてしまった」のでした。

一般市民に無理を強いておきながら、規制をかけた政府のほうは秘密裡に宴会が行われていた――。この不公平な状況を目にしたとき、ジョージ・オーウェルの『動物農場』(George Orwell, Animal Farm, 1945)からのある引用が、ふと頭をよぎりました。

ALL ANIMALS ARE EQUAL

BUT SOME ANIMALS ARE MORE EQUAL THAN OTHERS

寓話形式のこの作品は、人間による搾取に長年苦しめられてきた農場の動物たちが蜂起して人間を追い出し、平等に暮らせる農場を運営しだしたとたん、悪賢い豚たちが台頭しはじめ、新たな支配者になり代わるという話です。当初、全員で定めた「すべての動物たちは平等である(ALL ANIMALS ARE EQUAL)」という戒律は、豚たちによって、いつの間にか「いくらかの動物たちは、ほかの動物たちよりももっと平等である(BUT SOME ANIMALS ARE MORE EQUAL THAN OTHERS)」という、「平等」を非論理のうえに捻じ曲げた、“不”平等なものに書き換えられていました。そして豚たちもまた、日々困窮した生活に苦しむほかの動物たちの目を盗んでは、夜な夜な宴会に興じていたのです。

スクープ記事からこの映像が流れるまでの一週間、イギリス政府は一貫してパーティーの事実を否定しており、このビデオ報道のあとも国民に納得のいくような説明をしていません。そして、ロンドン警視庁でさえも「証拠不十分」(?!)であるとか、「過去に遡っての捜査はしない」(?!) ことを理由に、この疑惑に関する追及は行わないと明言しました。

クリスマスはもうすぐ・・・。オミクロン株は、今日もイギリスで爆発的に広がりつづけています。

 

関連ニュース記事)

https://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-59500512

https://www.itv.com/news/2021-12-07/no-10-staff-joke-in-leaked-recording-about-christmas-party-they-later-denied

https://www.independent.co.uk/voices/boris-johnson-christmas-party-downing-street-b1971620.html

https://news.sky.com/story/christmas-parties-denials-and-covid-rules-timeline-what-happened-in-downing-street-last-year-12489781

https://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-59588413

https://www.theguardian.com/uk-news/2021/dec/08/met-police-say-they-will-not-investigate-downing-street-christmas-party

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